電飾トロピカル帝都

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     イルミネーテッドねったいシティ
    電飾トロピカル帝都


おいらは10年以上、小説家をやっていたんだが、みんなエロ小説なので、女性の読者も多いこのサイトではちょっと、という物も多いんだが、珍しくエロのない小説も幾つかあるので、再録なんだが、シリーズ物を何回か掲載しようと思う。ゲーム雑誌に書いた小説です。1980年代が舞台です。



LED工作初心者の私にとって大変わかりやすい著書でした。
全く同じ工作を踏襲したわけではありませんが、各所の内容から基本技術を学ぶことができました。
初心者にお勧めです。

   南のクリスマス

 街頭ライブなんて浮浪者とおんなしだ。
 冬の寒さに新宿を逃げて沖縄へ。酔ったネイビーになぐられてヤんなってフェリーで台湾へ。そこではけっこう受けて、カネも溜まり、バンコクまでは飛行機に乗った。
 街はクリスマスだった。
 ファミリー・マートで買った山崎パンと、マクドナルドのコーラの夕食。
 そしてボクがギターケースをひらくのはそごうの近く、街でいちばんのイルミネーションに飾られた場所だ。
 原宿の街路樹なんてチンケなもんじゃない。無数の豆電球がこれでもかとばかりにビルを飾り、熱帯の夜をディズニーランドさながらの夢の国に染めあげている。
 電飾観光の田舎者めあての、風船売り、記念写真屋、スルメ売り、そんななかにまじって、ギターを持った。
 クリスマス、だからみんなは言っていた。ほら。こんなに涼しい。今が一年中でいちばん涼しい季節なんだ。
 でも日本人のボクには暑かった。少なくとも昼間っから街頭ライブをやる気にはなれないくらい。
 毎日、昼間はショッピング・モールを歩いてすごした。
 おなじように暑さをしのぐ学校帰りの中学生、人気なのはけたたましいTVゲームを並べたゲーセンと、アニメのキャラのフィギュアを売る店。
 セーラームーンの専門店とサンリオのグッズも人気だ。俺の娘はクレイジーアバウトセーラームーンだよ、と、大量の風船で自分が浮かんでしまいそうな痩せっぽちの風船売りのオヤジが嘆くほど。
 歌なんか唄ってるより、サンリオ・グッズでも抱えてくれば儲かったのに、と教えてくれたのはゲーセンのクレーン・ゲームで遊んでいた太い学生ズボンの不良高校生。
 俺のしりあいは観光旅行のかえりに浅草橋で仕入れたグッズをデパートに卸して旅費、稼いじゃったぜ。
 街は、毎晩がお祭りみたいだ。
 ついでにボクも、伊勢丹の紀伊国屋書店であわてて仕入れたアニメ主題歌本でブームに便乗させてもらったりして。
 一週間もたつとリクエストもかかるようになった。つまり、客がボクのレパートリーを覚えた、ということだ。
「......抱いて......」
 いきなりミニスカートの美少女から日本語でそう言われた時には、けれどもさすがにドキッとした。
「抱いて、あなた、きのうも唄ってた」
 カタコトの日本語と英語のチャンポン。肌の色は白いけど、もちろん日本人じゃない。十五、六歳かな? 細い身体、でも痩せてるっていう印象じゃない。もともと骨から細くて柔らかくて細い。
 ......そうそう、松田聖子だ。
 ゆうべのことを思い出す。そういえばタイトルを聞かれた。この娘ともうひとりの友人、コロコロとよく笑って楽しそうに。
 今夜はひとり。
 イルミネーションに飾られた街角。前奏なし、オープン・コードをひとつかき鳴らしただけでボクは唄いはじめた。
 松田聖子の『抱いて』。ヤンカラ・ナツメロのスタンダード・ナンバー。
 嬉しそうな表情で聞きいる少女につられるようにして、何人かが立ちどまる。好奇心に輝く瞳の幼児、ギターケースにコインを投げてくれるおばさん、不思議そうな顔をしてマジメに聞いているオジサン。
 暗くなってから、いくらか涼しい風が吹いている。歌はざわめきにまぎれてビルのはざまに響く。
 化粧っけのない素顔。どこかさびしげな陰りを表情に隠して、その娘は聞いている。
 都会の孤独をえがいた歌詞を、自分の胸でひとつひとつ受けとめているかのように、薄く唇を噛みしめて。
 それは、あるいは南の街のイルミネーションの、何十万もの豆電球が作り出した魔法だったのかも知れないけれど。

   ゴミ溜めのシャム猫

 大都会には天国も地獄も同居している。
 ピザハットとマクドナルドとファミリーマートとセブンイレブンと東京堂書店と紀伊国屋と銀座ライオンとダンキン・ドーナツと不二家と携帯電話とヤンエグとパンプスと、そして何より派手すぎるイルミネーションの輝きを離れれば、そこに地獄のフチを覗くこともできる。
 大通りにそって歩いて十五分で、そこについた。
 わずかにひっこんだ一角には、そこだけ歴然といかがわしい空気が澱んでいる。
 ためらったあげく、足を踏みいれた。
 中庭をかこむようにして小さな飲屋の数々。もっともその中庭にも無秩序にカウンター・バーが並んでいる。雨がふったら休業しちゃいそうな店。
 太った白人中年男の、酒に焼けた顔色。わずかな客と、それを相手にする女たち。
 まわりの店は、いわゆるゴーゴーバーというヤツだ。ビキニの女たちが腰をくねらせて踊り、男を誘う。
 けれど中庭のカウンター・バーは色気なし、ツマミなし、酒だけ売る。
 ゆっくりと歩いてまわった。
 あちこち声がかかる。違う、ボクが探しているのはアンタじゃないよ。
 だれかに聞こうにも言葉がわからないし。
 途方に暮れたところでやっと、発見した。カウンターのかげで恥ずかしそうに、小さく手をふっている少女を。
「ここだったんだ」
 ストゥールに腰をおちつけてビール。中庭にカウンターを置いただけの店で、ほかに人はいない。客も従業員も。
「ごはん食べてた」
 指でさした皿にはたべのこしの麺。
 肌にねっとりとまとわりつく湿った空気のなかで、ボクはあたりを見まわした。
 野良猫がストゥールにじゃれついている。痩せっぽち。考えてみれば本場のシャム猫だ、シャム猫体型をしている。こいつ、毛色は三毛だけど。
 ふらふらと白人が店から女連れで出てくる。ジーパンにTシャツの田舎っぽい娘。店のドアのうしろから見送っているのは、ビキニの水着の女の子。
 あれ、ブラはどこだ? そうか、ビキニのブラで髪を結んでいるんだ。
 かたちのいい乳房に視線を奪われていると、カウンターの少女がクスッと笑う。
「タイの女の子は怖いわよ、シャム猫だもの、油断するとひっかくわよ」
 と、言葉の後半は手真似で。
 もしかしてボクの浮気っぽい視線にやきもち焼いてるのかな、なんて、......いけない、もう酔ったんだろうか?
 どこかゴミ溜めみたいなにおいのする、けれど、どこか居心地のいい場所。
 ボクの英語と大差ないカタコト英語で、彼女はいろいろ教えてくれた。
 ここはヨーロッパやオーストラリアの白人が遊びにくるところだ。
 中庭をかこむ建物には無数のオンナをかかえる無数の飲屋。しかも三階がホテルになっているというのは用意がいい。
 近くの飲屋の女の子がイナゴの佃煮をくれた。田舎を思いだしながらボリボリかじる。何がおかしいのか、笑われてしまった。
「日本人もこんなモノ食べるの?」
 そうかあ、白人は食べないだろうな、こんなモノ。
「このひと、ミュージシャンなんだよ」
「ほんと~? 聞かせて、聞かせて」
 なんて会話が二人のあいだであったようだ。いつしか、ビキニを着たシャム猫にかこまれてしまっていた。
 さっきの、ブラで髪の毛を結んでた女の子もいる。今はちゃんと、ブラはブラの役目を果たしているけれど。
 あちこちの店からけたたましい音楽があふれて混じりあう中庭。そう、適度に騒々しいくらいがストリート・ミュージシャンにはふさわしいからね。

   ショッピング・モール

 その夜からボクは安宿をひきはらい、彼女のアパートで暮らした。
 マイ、......だからボクは勝手に"舞"なんて呼んだ。けどあのイナゴをくれた女の子もルームメイトだ。
 そう、恋人なんて洒落たもんじゃない、ただの居候だ。
 暗くなると例の、天国みたいな、遊園地みたいな、イルミネーションだらけの街角でライブ。稼ぎは台北ほどじゃないけど日本よりマシだったりして。
 "舞"はひとりであのカウンター・バーをやっている。
「だって水着なんて恥ずかしいもの」
 本人はそう言う。イナゴをくれた女の子は違った意見だ。"舞"はオトコを知らないから、つまり、ヴァージンだから、ああいう商売はできない、とこっそり教えてくれる。
 ほとんど客の来ないカウンターで、居眠りしたり、何か食べたり、ビキニの同僚とおしゃべりしたりして時間を過ごす。
 野良猫みたいなもんだ。
 給料も安い。"舞"の年齢と学歴ではその程度の仕事しかない。
 クリスマスを過ぎて元旦も過ぎて、もっともこの国は旧暦で動いている。ほとんどふだんと変わらない毎日。
 そんな午後、二人でショッピング・モールへ行った。
「いなかに帰省するの。弟や妹におみやげ買うのよ」
 ショッピング・モールは、ちょっとした近未来電脳都市といった雰囲気だった。
 三年前まで雨が降ると電話がつながらなかった国が、......いや、だから、なのか。今や電池なしで動かないヤンエグ気取り。携帯電話がこれくらい普及している街もない。
 家ではパソコン子供はファミコン。TVのアニメも日本とほぼリアルタイムだ。
 そして"舞"が買ったのもファミコンとそのソフトだった。
「いいのかい? そんな高いもの」
「だって、このために働いてるんだもの」
 食べて生きるためだったら都会に出てくる必要はない。食べきれないほどコメも野菜も取れる。
 ここ何ヵ月か溜めこんだ蓄えをほとんどはたいて買いこんだ包み。大事そうに抱えて、電子音にまみれた建物を出る。
 まさかあのイナゴ娘と二人っきりでアパートに残るわけにも行かないでしょ、アンタも来るのよ、と言われちゃ、居候としては拒否できない。
 北の町まで夜行バスは十時間かけて走る。車中でのビデオは古い香港カンフー映画。ほとんどの客は眠っていた。
 "舞"も眠っている。
 頭上のたなが空いているのに乗せようとしないまま、まだファミコンやらセーラームーン・グッズやら、たくさんのみやげものを抱えて。
 バンコクは、巨大な水田のまんなかにぽっかりと浮かんだ幻の楼閣だ。
 人口八百万、......いや、ホントは一千万を越えるという説もある。事実はだれも知らない。タイで一番大きい街というだけじゃない。タイでほとんど唯一の街。
 イルミネーションに飾られた薄っぺらな未来都市から抜けたバスは、延々と続く水田を走り抜けてゆく。でも季節は冬、刈り入れも終わって荒野みたいになっている。
 眠れないままバスの揺れに身をまかせて、とめどなく続く景色を眺める。
 わずかな月と星のあかり。
 ときおり通りすぎる町はどれも、ちっぽけな地方都市だ。セブンイレブンもマクドナルドもない。
 まだ営業しているレストランや飲屋を飾る色とりどりのイルミネーションさえ、どこかうら寂しい。まるで過去を懐かしむ残像のようだ。
 夜が明けたのは、さすがに疲れからうつらうつらしはじめた頃だ。
 バスもときおり、それぞれの町で客をおろしはじめる。
 終点は国境まであとわずかという北のはずれの町だった。
 たくさんの荷物を抱えて、そこからはダットサンの荷台に乗る。
「笑わないでよ、小さい家だから。電気も来てないし」
「電気がないのに、どうやってファミコンしたりTV見たりするんだ?」
 その謎はほどなく解けることになる。
 ニワトリと犬とブタとアヒルが走りまわる敷地に、高床に建てられた"舞"の家。
 ななめにさしこむ昇ったばかりの朝日に照らされて子供がふたり、待っていた。
 素人のバラック造りみたいな建物にはちゃんとTVアンテナがてっぺんにつけられて、でも確かにどこからも電源は来てない。
 この家だけじゃない、ちらほら点在するどの家にも、電気は来てないのだった。

   手描きのコミケット

 すぐ裏が小川になっている。濁った水がゆったりと流れ、対岸から裸の子供たちが飛びこんだり泳いだり、はしゃいでいた。
 いかにものんびりした東南アジアの田舎の景色。時間がゆっくりと過ぎていくような、そんな感じだ。
 "舞"の妹は中学生。紺のスカートに白いシャツの制服姿。そんな年頃なのか、例によって『セーラームーンに夢中』というヤツで、ノートとか下敷きとか、姉の買ってきたみやげに飛びつく。
 弟はまだ小学生だろう。
 さっそくファミコンをTVに接続したものの、TVのスイッチが入らない。
「故障?」
「ううん、電気がないから。今、おとうさんが電気を買いに行ってる」
 まったく意味不明の言葉、残念なことにボクの語学力では、そして彼女の語学力では、それ以上のことはわからない。
 "舞"によく似た妹がセーラームーンのノートを見せてくれた。姉が買ってきた日本製じゃない。
「あれ、......これ」
 制服の少女がにっこりとほほ笑む。
「これ、印刷じゃない。手描きだ」
 どこでも売ってるような安っぽいノート。その灰色の粗末な表紙に印刷されていると見えたのは、画用紙に手描きでかかれたセーラームーンだったのだ。
 わずかに薄く残った鉛筆の下描き、学校で使うふつうの絵具でていねいにムラなく塗られた色、輪郭にそって切り抜いてノリで表紙に張りつけてあるのだ。
「......じょうずだよ、すごくうまい」
 水浴びしたばかりで髪の毛を濡らしたまま戻ってきた"舞"に言う。
「ビジネスよ」
 また不思議なことを言って"舞"が笑う。都会での彼女とちがって、すごく自然でいきいきとした笑顔だ。
「ノート、たくさん買うと二十円。絵をつけて三十円で売る」
 アタマいいでしょ? と、クスクス。妹は、「これがセーラー・マーキュリーで」とそれぞれのキャラを教えてくれる。
 そこに父親が戻ってきた。
 自転車の荷台から車のバッテリーをおろしている。そう、それがTVの電源だ。町の電気屋で充電してきたというわけ。
 しあがった手製のセーラームーンのノートを何冊も抱えて、妹は学校へ。弟はまだ、やっと動きはじめたTVゲームに夢中だ。
 高床の頭上から聞こえてくる場違いな電子音がニワトリやアヒルの鳴声にまじって子守歌だ。水浴びをしたあとでボクはハンモックで揺られてひと眠りした。
 たった一日のせわしない帰省だった。実家に泊まることもせずに、街に戻らなくてはならない"舞"は、とたんに寂しげな顔になってしまう。
 携帯電話の電波とイルミネーションの光と、とめどなくあふれる騒音にまみれた街への旅は、ふたたび夜行バスだ。
 昼寝したせいで眠くない......と"舞"はずっと起きていた。ボクもそうだ。
 パンコクが近づくにつれて、目を覚ましているくせにどんどん無口になる。が、やがて決心したかのようにボクの手を握ってきた。
「いつ、日本に帰るの?」
 そうだ、ボクは旅人だった。
 答えられないまま、ボクは黙っているしかなかった。
 街の偽ディズニーランドじみた電飾飾りはまだ、そのままだった。
 どこに行ってたんだい? と風船売りオヤジ。そうか、北か。......そうそう、知ってるかい? この電球を灯している電気もあそこから来るんだぜ。
 こうしてバンコクで無駄づかいしている電気は、山岳部の水力発電所で作られているというのだ。
 そればかりじゃない、ラオスからも『輸入』されている。
 作られたところを素通りして。
 街は電脳で動くロボットさながらに、今日もバタバタと騒々しい。ボクはギターをかき鳴らし叫ぶ。この街のざわめきに負けないように、と。


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